- パートナーがピロリ菌に感染していることが分かり、自分も感染していないか心配
- ピロリ菌の感染経路は?キスや性行為でも感染する?
- ピロリ菌にはどんな悪影響があるの?治療はできる?
今回は、このようなお悩みを解説していきます。
ピロリ菌は誰もが聞いたことがある菌の名前でしょう。
ピロリ菌は胃がんの原因となる細菌で有名です。
パートナーからピロリ菌が発見されたら、自分もかかっていないか不安になるではないでしょうか?
当記事では、ピロリ菌の感染経路や感染するとどのような悪影響を及ぼすのかを解説します。
最後まで読めば、夫婦間でピロリ菌をうつさないようにする方法や正しい治療の方法がわかり、ピロリ菌にかかっていても正しい対処ができるようになります。
ピロリ菌とは
ピロリ菌は正式にはヘリコバクター・ピロリと言い、胃の粘膜に住み着く細菌です。
べん毛と呼ばれるしっぽが生えており、しっぽを回転させながらすばやく動き回り胃の中を移動します。
胃の中は強い酸性なのでふつうの細菌は死滅してしまいます。
しかし、ピロリ菌は特殊な酵素で自身を守る膜を作って胃の中で生きられます。
そのため、ピロリ菌は一度感染すると除菌しない限りは胃の中にすみ続けると言われており、私たちの体にさまざまな悪影響を及ぼすおそろしい細菌です。
ピロリ菌の悪影響とは、胃に炎症を起こし胃・十二指腸潰瘍や胃がんの原因になったり、胃マルトリンパ腫や特発性血小板減少性紫斑病といった血液の病気を起こしたり、命を危険にさらす恐ろしい病気を引き起こします。
ピロリ菌の感染者数について
日本人のピロリ菌感染者はおよそ3500万人と多く、40歳以上では70%〜80%の人が感染していると言われています。
約3人に1人の割合で感染している計算となり、私たちにとってピロリ菌感染はとても身近な問題です。
10~20代の感染率は10%以下と比較的低いのですが、年齢とともに徐々に感染率は高くなる傾向にあり、65歳以上の感染率は80%以上とも言われています。
夫婦間でもピロリ菌はうつるの?キスや性行為で感染するの?
ピロリ菌はどのような経路で人の胃に入っていくのでしょうか。
実は感染経路についてまだはっきりとわかっておらず、詳しい原因については解明されていません。
ですが、おもに「人から人」への経口感染が原因と考えられており、感染経路には以下の3種類があります。
感染経路について
- 唾液を介しての「口〜口」への感染
- ふん便を介しての「便〜口」への感染
- 汚染された水を介しての「飲料水」からの感染
以前は汚染された水(井戸水など)を口にして感染することが指摘されていましたが、現在は幼児期に両親などからの唾液が主な感染経路であると指摘されています。
夫婦間でもピロリ菌は感染するの?
夫婦間のキスやコップの回し飲みなどの日常生活で、ピロリ菌は移ってしまうのでしょうか。
答えは、大人同士の感染についてはあまり心配ないとされており、過剰な心配は不要です。
理由は、ピロリ菌の感染は胃酸の酸性度が弱い幼少期が主で、大人になってからの感染は極めて低いと言われています。
成人は免疫が高く胃酸の量も多いため、自身の免疫力でピロリ菌を死滅させることができ、一時的な急性胃炎で終わる可能性が高いです。
よって夫婦間の日常生活で相手に感染させる可能性は低いとされます。
キスや性行為でも感染する可能性はある?
ピロリ菌は、大人になってから感染することは極めて低いとされているため、キスや性行為をしても感染することは極めて低いとされます。
仮にパートナーがピロリ菌に感染しているからといって、夫婦間で感染してしまうことは極めて稀とされています。
小さいお子様がいる家庭は要注意
小さいお子さんがいる家庭では注意が必要です。
幼児期は胃酸の酸性度が低くピロリ菌が生き延びやすい環境となります。
そのため、離乳食の口移しなどで子どもが感染する可能性は大いにあります。
大人と一緒の食器を使い回すことや、飲み物を共有することは控えましょう。
ピロリ菌はどんな影響を与えるの?
ピロリ菌は、私たちの胃にどのような影響を及ぼすか解説していきます。
ピロリ菌が長期にわたって胃に潜伏すると、胃の内壁に慢性的な炎症を起こし粘膜を傷つきやすい状態にします。
すると胃炎を引き起こし、この状態をヘリコバクター・ピロリ感染胃炎と呼びます。
ヘリコバクターピロリ感染胃炎という名前を聞くと、胃の痛みなどの症状があるのでは?と思いますが、ピロリ菌由来の胃炎はほとんどの人に症状が出ません。
ですが胃炎の症状が長く続くと胃粘膜全体に炎症が広がり、やがて慢性胃炎になり胃痛や胃もたれといった症状を伴います。
慢性胃炎の状態が続くと胃を守っている粘液が徐々に減少していき、胃酸の影響を受けて胃粘膜がただれていきます。
その結果、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を起こすのです。
胃の炎症が長く続くと、胃の粘膜が薄く痩せてしまう萎縮性胃炎になり、一部はがん化して私たちの命をおびやかします。
このようにピロリ菌は徐々に私たちの胃をむしばみ、命に関わる病気を引き起こすのです。
ピロリ菌に感染していたとしても、直接的に症状が現れるわけではなく、ピロリ菌感染によって胃疾患を発症することでこのような症状があらわれます。
- 吐き気や胸やけ
- げっぷが続く
- 食欲不振
- 消化不良
- 腹痛
- 体重減少
以上の症状が続く場合は、ピロリ菌感染による胃疾患の可能性があるかもしれません。
ピロリ菌の検査方法
ピロリ菌に感染していないか気になる際は、病院で検査をしてもらいましょう。
検査方法には内視鏡を使用する検査と、使用しない検査の二通りに分けられます。
- 検査方法
-
迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法
- 目的
-
ピロリ菌を除菌した後の判定や、内視鏡前の簡単なスクリーニング
- 検査内容
-
胃の表面を観察したり組織を一部とって直接調べる
- メリット
-
体の負担も少なく簡単に検査可能
- デメリット
-
精密検査を行うことができない
ピロリ菌の検査はさまざまで、検査の特性を理解した上で、自分がどの検査を受けたほうが良いのか医師に相談しましょう。
ピロリ菌検査方法:上部内視鏡(胃カメラ)
ピロリ菌の感染を疑う際には内視鏡による精密な検査が必要です。
上部内視鏡検査は、先端に超小型の高性能カメラを内蔵したファイバースコープという管を鼻や口から入れて胃を直接観察します。
ピロリ菌に感染している胃粘膜には炎症があり、炎症所見を直接観察して感染の有無を推測するのです。
場合によっては一部の組織を取り除き、顕微鏡検査や培養検査によってピロリ菌に感染しているかを調べる方法もあります。
ピロリ菌検査方法:血液検査
血液検査によって、ピロリ菌に感染しているかを簡単に調べられます。
簡単にピロリ菌の有無を調べられるので、健康診断などで多く用いられている方法です。
ピロリ菌に感染すると、細菌を倒すために体がピロリ菌に対する抗体を作り出します。
ピロリ菌に対する抗体が、血液中にどのくらいあるかを測定して、感染の有無を判断するのです。
ピロリ菌抗体検査と呼ばれ、血液中に含まれるピロリ菌抗体が一定量以上ある場合に陽性となり、感染の有無や過去に感染していた可能性を示します。
結果が出るまでに3〜4日と時間がかかることや、たとえ陰性であっても感染していることもあり、感度が低いことがデメリットです。
ですが、体に負担もなく簡単に行えるため、ピロリ菌検査として広く行われています。
自費診療でも数千円で受けることができるので、費用の負担も少なくて済む方法です。
ピロリ菌検査方法:尿検査
尿検査でも簡単にピロリ菌に感染しているかを調べられます。
血液検査と原理は同じで、ピロリ菌に感染した場合に抗体が作られるので、抗体の有無を調べ感染しているかを判断する方法です。
体の負担も少なく簡単に検査が行えますが精度は低く、人間ドックなどのスクリーニングに主に用いられています。
ピロリ菌検査方法:尿素呼気検査
ピロリ菌検査の中で最も精度が優れている検査方法と言われ、とくに除菌治療をした後の判定によく使われる方法です。
尿素呼気検査は、ピロリ菌の性質を利用して感染の有無を調べます。
ピロリ菌の性質とは、自身が持っているウレアーゼという酵素で、胃の中の尿素を分解してアンモニアと二酸化炭素を発生させることです。
尿素が分解された後、発生した二酸化炭素は肺に運ばれ呼気中に炭酸ガス(二酸化炭素)となって現れます。
この性質を利用し、ユーピットと呼ばれる尿素を含む錠剤を飲んだ後、服用前後の吐いた息に含まれる二酸化炭素の量を測定するのです。
服用後に吐いた息の二酸化炭素量が増加していた場合は、ピロリ菌が存在する可能性が高くなります。
検査前は食事や飲水制限がありますが、体への負担もなく30分ほどで終了するので手軽にピロリ菌の有無を調べられます。
ピロリ菌検査は保険適用?適用外?
ここで押さえておきたいのが、検査費用が保険適用となるには一定の条件があります。
- 胃・十二指腸潰瘍の経験や再発を繰り返している
- 内視鏡検査によって慢性胃炎を認めた人
条件に当てはまらない場合は自費で検査を受けることになり、費用は検査方法によって異なりますが1,000円〜10,000円程度で受けられます。
ですが、自治体が検査費用を補助や全額負担してくれるなど、自己負担なしで受けれる場合もあります。
手軽に受ける方法としては、健康診断や人間ドックなどで希望して受けるのがよいです。
ピロリ菌の治療方法
ピロリ菌は細菌の一種であるため、抗生剤を使用した内服治療が行われます。
治療は一次除菌と二次除菌の2段階で行われ、1回目と2回目を合わせた成功率は約97〜99%と比較的高めです。
一時除菌では、胃酸を抑制する薬と2種類の抗生物質を合わせて3種類、1週間内服します。
その後2ヶ月以上経ってから、ピロリ菌が除菌できているかどうかの確認をする検査をして治療は終了です。
この時点で70%〜80%程度の確率で除菌は成功すると言われてますが、一次除菌でピロリ菌を除菌しきれなかった場合には二次除菌を行います。
二次除菌では、一次除菌で使用した胃酸を抑制する薬と抗生物質の種類を変更して再度、3種類の薬を1週間ほど内服します。
ほとんどの場合は2回目の除菌でピロリ菌は死滅し、治療は終了です。
中には3次除菌として治療を行う場合がありますが、一、二次除菌が保険適用であった場合でも三次除菌は自費診療となります。
治療中の注意点
除菌治療にも注意点があり、二次除菌で使用する内服薬には禁酒をする必要があるものもあります。
さらに除菌を行うことによって、一時的に胃酸分泌が多くなり逆流性食道炎が悪化する例もある様です。
ここでおさえておきたいのが、除菌療法は内視鏡検査を受けてピロリ菌感染に伴う胃炎の所見が見られている場合にのみ保険適用となり、治療を受けられます。
それ以外の方が治療を希望する場合は、薬代や陰性確認の検査代などは全額自己負担となる点に注意が必要です。
夫婦間でピロリ菌がうつらないようにする方法
ピロリ菌の感染は、免疫が十分でない幼児期が主で大人になってからの感染はほとんどないと言われています。
ですが、著しく免疫が低下している状態であれば大人でも感染する可能性はゼロではありません。
よって夫婦間でピロリ菌がうつらないようにするには、除菌治療を行うことが一番です。
ピロリ菌感染が疑われる場合は、除菌治療を行うことでパートナーやお子さんを感染させてしまう可能性が減ります。
さらに、除菌治療を行うことによって将来の胃がん発生のリスクを3分の1まで減らすことが報告されており、命にかかわる病気の発症を防げます。
ですが、ピロリ菌は口から人の胃へ侵入していき、唾液を介しての家庭内感染によるものが多いことは事実です。
抵抗力の弱いお子さんや病気のパートナーがいる場合は、飲み物の回し飲みや食器の併用などには気をつけましょう。
また、免疫が備わっている大人同士ならキスなどの関わりあいは問題ありませんが、小さい子供や抵抗力の弱っている大人に対しては感染させてしまうリスクがあることを念頭におきましょう。
【まとめ】ピロリ菌はうつる!早めの治療で悪化を防ごう
ピロリ菌の感染は、「人ー人」での経口感染が主で相手に感染させてしまう可能性はゼロではありません。
胃の中にピロリ菌がすみつくと、さまざまな胃の不調や命にかかわるほどの大きな病気をまねく事態になります。
ピロリ菌が原因で胃がんになってしまうリスクを考え、結婚されている方は一度パートナーと一緒に検査を受けてみるのもよいでしょう。
検査を受け、ピロリ菌を除菌することでパートナーや将来の子どもを守ることになります。
そして、とくに注意したいのが60歳以上の高齢者です。
60歳以上のピロリ菌感染率はかなり高く、自分の孫や、抵抗力の弱い高齢のパートナーうつしてしまう不安を持たれている方が多いのではないでしょうか。
現代は共働きの世代で孫の面倒を見ることも多く、さらに老老介護でパートナーを介護している方も多いはずです。
孫やパートナーにうつしてしまう可能性も考えられ、家庭内感染を不安に感じた場合は医師に相談して検査を受けましょう。
また、2021年の全国がん登録罹患データでは、がんの死亡数の順位が男女合わせ胃がんが第三位に入っています。
早期に除菌治療を行うことは、将来の胃がんの発症を予防でき、生命予後を伸ばすことにもつながるのです。
ピロリ菌とは可愛い名前ですが、本当に恐ろしい菌です。
正しい知識と理解を持って、ピロリ菌から自分の身やパートナー、自分の子どもや孫を守りましょう。